認知バイアスとは
認知バイアスとは、人間の思考が、特定の方向に、偏りやすい傾向のことです。日常では、素早く判断するために役立つ場面もありますが、確率や、お金が絡む場面では、判断を誤らせることがあります。ギャンブルは、こうした偏りが、特に強く働きやすい場面です。
ここで紹介するバイアスは、意志が弱い人だけに起きるものではありません。誰にでも起きる、脳の仕組みです。だからこそ、あらかじめ知っておくことで、対策が立てやすくなります。
確率と期待値の基本
バイアスの影響を、正しく理解するには、「期待値」の考え方が役立ちます。期待値とは、同じ賭けを、何度も繰り返したときの、1回あたりの平均的な結果です。たとえば、RTP(還元率)が96%のスロットに、1回100円で、1,000回賭けると、賭け金の合計は100,000円で、理論上の払い戻しは、96,000円です。差額の4,000円が、長期的な、期待損失です。
期待値が、賭ける側に不利なゲームでは、賭け続けるほど、損失が積み重なります。「運が向いてくるまで、続ける」という考え方は、期待値の観点では、損失を増やす方向に働きます。
1. ギャンブラーの誤謬(次こそ当たる)
ギャンブラーの誤謬とは、「同じ結果が続いたから、次は、逆の結果が出やすくなる」と考える誤りです。たとえば、コインを投げて、表が5回続いたとします。5回連続で表が出る確率は、32分の1(約3.1%)で、珍しく見えます。しかし、6回目に表が出る確率は、それまでの結果に関係なく、2分の1のままです。コインには、記憶がありません。
ルーレットでも同じです。ヨーロピアンルーレットで、赤が6回連続で出る確率は、約1.3%です。ただし、5回連続で赤が出たあとに、6回目も赤が出る確率は、約48.6%で、それまでの結果とは無関係です。スロットも、乱数で結果が決まるため、「長く当たっていないから、そろそろ当たる」ということはありません。
| 状況 | 次の結果が出る確率 |
|---|---|
| コインを投げて、表が5回連続で出た後、次も表 | 50%(変わらない) |
| ルーレットで赤が5回連続した後、次も赤(ヨーロピアン) | 約48.6%(変わらない) |
※各回が独立している場合の例です。
2. ホットハンド(今日は流れが来ている)
ホットハンドは、ギャンブラーの誤謬と逆で、「勝ちが続いているから、まだ続く」と考える偏りです。バスケットボールで、シュートが続けて入る選手を「調子がいい」と見る感覚が、もとになっています。
ギャンブルでは、結果がそれぞれ独立しているため、勝ちが続いても、次の勝つ確率は変わりません。ところが、「流れが来ている」と感じて、賭け金を増やすと、その後の外れで、大きく損をすることがあります。
3. ニアミス効果(あと少しだった)
ニアミス効果とは、当たりに、あと少しの結果(スロットで、絵柄が1つずれた、など)が、負けよりも、当たりに近づいたと、感じられる現象です。実際には、外れであることに変わりはなく、次に当たる確率も、変わりません。
研究では、ニアミスが、プレイを続けたい気持ちを、強めることが指摘されています。ゲームの設計上、ニアミスの演出が、よく出るようにしているものもあります。「あと少し」は、当たりに近づいているのではなく、外れを、当たりに近く見せている演出と考えるのが、安全です。
4. サンクコスト(ここでやめたら無駄になる)
サンクコストとは、すでに使って、取り戻せないコスト(お金や時間)のことです。「ここまで、負けた分を、取り返すまでやめられない」と考えるのが、サンクコストにとらわれた状態です。
冷静に考えると、すでに失った分は、続けても、戻ってきません。次に賭けるかどうかの判断は、これからの期待値だけで、行うべきです。ギャンブルでは、期待値が、賭ける側に不利なため、続けるほど、損失が積み重なります。この「追いかける」行動は、ギャンブルの問題の、代表的なサインの1つです。
5. コントロールの錯覚(自分なら当てられる)
コントロールの錯覚とは、運で決まることを、自分の力で、コントロールできると感じる偏りです。1975年の心理学の研究では、同じくじを、自分で選んだ人のほうが、他人が選んだくじより、高い金額で売りたがることが示されました。サイコロを自分で振ると、高い数字が出ると感じる、という傾向も、報告されています。
スロットのボタンを、押すタイミングを工夫する、ルーレットの数字を、法則で予想する、といった行動は、結果に影響を与えないにもかかわらず、コントロールしている感覚を、生みます。「知識があるから、勝てる」という感覚も、同じです。
6. 損失回避(負けを取り返したい)
損失回避とは、同じ金額でも、得をする喜びより、損をする痛みのほうを、強く感じる偏りです。一般に、損失の痛みは、同じ額の利益の喜びの、2倍程度に、感じられるとされます。
そのため、負けているときは、損失を取り戻したい気持ちが強くなり、リスクの高い賭けに、出やすくなります。一度勝った後に、「この勝ち金は、もともとなかったお金だから」と考えて、大きく賭けてしまう「ハウスマネー効果」も、同じ流れの中にあります。
7. 生存者バイアス(勝った話だけが聞こえる)
生存者バイアスとは、成功した例だけが目に入り、失敗した例が、見えなくなる偏りです。ギャンブルでは、大きく勝った人の話は、SNSや動画で、広く共有されます。一方、大きく負けた人や、賭け続けて資金を失った人の話は、表に出にくくなります。
その結果、「意外と勝てるのではないか」という印象が、実際より強くなります。目に入る情報が、偏っていることを、意識しておく必要があります。
バイアスが強まりやすい状況
認知バイアスは、状況によって、強く働きます。次のような場面では、特に、注意が必要です。
- 疲れているとき、睡眠不足のとき
- 飲酒しているとき
- 負けが続いて、気持ちが焦っているとき
- 1回のプレイが速く、考える時間がないとき
- 光や音の演出が、派手なとき
- 周りに、盛り上がっている人がいるとき
こうした状況では、判断が速くなり、冷静に確率を考える余裕が、なくなります。遊ぶ前に、ルールを決めておくことが、有効なのは、このためです。
ある場面で、考えてみる(架空の例)
次は、架空の例です。予算5,000円で、遊び始めたAさんは、最初の1時間で、3,000円を失いました。「ここでやめたら、3,000円が無駄になる」と考え(サンクコスト)、さらに5,000円を、追加します。数回続けて外れたあと、「そろそろ当たるはずだ」と考え(ギャンブラーの誤謬)、賭け金を増やします。あと少しで揃う演出が出ると(ニアミス)、「流れが来ている」と感じて(ホットハンド)、続けます。
この例では、最初の予算を超えた時点で、複数のバイアスが、重なって働いています。どこか1つの場面でも、「予算を超えたら、やめる」というルールを守れていれば、損失は、3,000円で済んでいました。
バイアスに、振り回されないために
- 賭ける前に、予算と時間を決める。決めた後は、その場で変えない
- 「次こそ」「あと少し」と感じたら、いったん止めて、休憩する
- 負けを取り戻すために、賭け金を増やさない
- 「必勝法」や「攻略法」を、うのみにしない。勝ちを保証する方法はない
- SNSなどで見る、勝った話は、氷山の一角と考える
- 記録をつけて、実際の収支を、客観的に確認する
認知バイアスは、知っただけで、なくなるものではありません。それでも、「今、バイアスが働いている」と気づくだけで、行動を止めるきっかけになります。
お住まいの地域の精神保健福祉センター、またはこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)へご相談ください。受付時間は地域によって異なります。
バイアス別の、対策の例
| バイアス | 対策の例 |
|---|---|
| ギャンブラーの誤謬 | 「各回は独立している」と、紙に書いておく。過去の結果で、賭け方を変えない |
| ホットハンド | 勝っているときこそ、予算を増やさない。勝ち金は、その場で、確定させる |
| ニアミス | 「外れは外れ」と考える。演出が出たら、いったん、手を止める |
| サンクコスト | 予算を超えたら、その場で終了。取り返す、という発想を、捨てる |
| コントロールの錯覚 | 結果に、影響を与えないことを、確認する。ゲームの仕組みを、調べる |
| 損失回避 | 1回ごとの損益ではなく、月ごとの、合計で見る |
| 生存者バイアス | 勝った話だけでなく、実際の統計や、期待値を、確認する |
どの対策にも共通するのは、賭ける前に決めておくことです。賭けている最中は、冷静な判断が、難しくなるためです。
「波」や「設定」という考え方について
スロットについて、「波がある」「今日は、設定が良い」といった話を、聞くことがあります。オンラインのスロットは、乱数で、結果が決まっており、直前の結果が、次の結果に、影響することはありません。RTPは、長期の平均から、計算された理論値で、短期の結果とは、別です。
「波」に見えるものの多くは、偶然が作る、偏りです。ランダムな結果は、実際には、連続や偏りが、しばしば、現れます。人間は、そこに、パターンを、見つけようとする傾向があります。
よくある質問
ギャンブラーの誤謬とは、何ですか?
同じ結果が続いたから、次は、逆の結果が出やすくなると考える誤りです。コインやルーレット、スロットのように、各回が独立している場合、過去の結果は、次の結果に影響しません。
「ニアミス」は、当たりに近づいているということですか?
いいえ。ニアミスは、外れであることに変わりはなく、次に当たる確率も、変わりません。当たりに近い印象を与える演出と考えるのが、安全です。
バイアスは、経験を積めば、なくなりますか?
経験を積んでも、バイアスは、なくなりにくいとされています。むしろ、経験があるほど、「自分は理解している」という思い込みが、強くなることがあります。ルールや、記録で、行動を縛ることが、対策になります。
負けを取り返すために、続けたくなります。どうすればよいですか?
その気持ちは、損失回避や、サンクコストという、自然な偏りから生まれます。いったん止めて、休憩する、家族や信頼できる人に話す、相談窓口に連絡する、などの行動が、有効です。
バイアスの影響を、減らす、簡単な方法はありますか?
遊ぶ前に、予算と時間のルールを決め、記録をつけることです。負けている最中に、判断を変えないよう、あらかじめ、書いておくのが、効果的です。